眼つきをした給仕が急いで出て来た。探偵は(もともとちょっとした冗談のきらいでない彼は)まあこの砂糖をなめてみろ。これが、この店の売り出している特色なのかとたずねた。給仕はその結果|睡気《ねむけ》もさめて、口をパックリあけてただ驚くばかりだった。
「君の店じゃあ、お客様に毎朝こんな念入りな冗談をやるのかい?」とヴァランタンは訊ねた。「食塩と砂糖とを入換えておくなんて、まあどんなものかね?」
給仕も、この真綿で首をしめるような皮肉がはっきりわかったので、どもりどもり弁解し始めた。そして、「そんな心持ちはちょっともございません、それはとんでもない間違いでございます」と言うのだった。
彼は砂糖入れを取り上げてあらため、また食塩入れもあらためた。彼はだんだん困惑と不可解の表情をあらわし始めた。遂にたまりかねて軽い会釈をすると、あたふたと奥へ馳《か》けて行った。そして、主人を伴ってかえって来た。主人も、二つの入れ物をかわるがわるあらためたが、ひどく困惑した様子だった。
突然給仕が一生懸命に何か言い出した。
「ああそうです、わかりました」と彼は熱心におどおどとつけ加えた。「あの二人連れの坊さん
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