包を開いてみた。白い銀子が光っていた。十両以上あるらしかった。
(十両くれたって有難くねえや――)
 反抗的に、そう考えてみたが、内蔵之助が何故自分にだけ、こんなに別にして多くくれたのか判らなかった。
(人間、金よりは、気持だ。俺ら、一両だっていいから、皆と同じように分けて欲しかったんだ、大高め、四十六といやがった。俺だけ頭数に入ってねえんだ。人を、馬鹿にしてやがる――)
 微かに、どよめきが、聞えてきて、だんだん高くなってきた。
(やってやがらあ、吉良にだって、うんと、附人がいるんだ。斬られてしまえ、皆斬られろ――俺は、国へ戻って、後生楽に暮らすんだ。もう士は懲り懲りだ――)
 人の走ってくる、足音がした。吉右衛門は、身体を引いて、小さくなった。吉良の隣りらしく、少し離れた塀の上に、大提灯が立って、人声がしていた。ちらっと、掠《かす》めて、提灯が走った。話声が、走って行った。
(さあ、この間に――)
 と、思って、吉右衛門は、雪の中へ出ると
「大変だ、大変だ」
 と、呟きつつ、小走りに歩き出した。行く手から、横町から、時々、人が走り出してきた。誰も、吉右衛門を怪しまなかった。川の上の
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