い籤を引くことになるんだ。妙な廻り合せになるものだな、人間っていう奴は――)
と、思っていた。いつの間にか、妻は、手を突いて、顔を伏せて、袖で涙をぬぐっていた。それを見ていると、吉右衛門は、何故か、自分も、悲しくなってきた。
八
「吉右衛門、切腹と、きまった」
と、いって、方丈が、入ってきた。
「はい」
「今、知らせが入ったからと、使がきた。お経でも、上げよう」
方丈が、そういっていると、村の庄屋の声で
「これを一つ吉右衛門さんに」
と、庫裡で、いっているのが聞えた。
「切腹に、な」
吉右衛門は首垂《うなだ》れてしまった。
「吉右衛門、短慮を起すでないぞ。この上は諸士の後生を、よく弔うのが、何よりの務じゃ。追腹《おいばら》切ろうより、何をしようより、弔って上げなさい。他人の百遍の念仏より、お前の一度の念仏の方がよい功徳になる」
吉右衛門は心の中で
(これで、安心した)
と、すっかり、落ちつくと共に
(何んだか、済まんような)
とも、感じた。
(俺のことは喋っていないだろう。喋ったって、対手は死んだのだし、俺は生きているんだ、他の奴が、何をいったって、太夫が、
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