金でもあったら、そのかかりの銀行員でもいい、発見した人に進呈する。

    三十

 その小さな新居で、今、これを書いているのであるが、午前五時十六分前、徹夜である。これで、肺病が治るであろうか。
 暖房装置がまだ出来て無いので、炭火である。そろそろ空腹であるが、女中二人と、娘一人っきり(読売新聞の結婚談は大※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]である)、神経痛で、腰が痛むから、尿瓶《しびん》を置いて、用を足す位で、勝手へ行って、パンを焼く気にもなれない。
 明日の起床、午後二時、太陽は、少し右へ廻っているから、折角、縁側を広くして、日光浴でもして、と考えていたのも、全然駄目で、朝は、腰が曲らぬから、がさがさと赤ん坊のように這いながら、この縁側で、ようよう新聞を読む位。
 東京へ出る日には、アトファンを、寝る前に飲んで、朝痛みの少いようにしておいて、あんよは御上手程度に歩く。
 しかし、こんな無茶をしていながら、痰《たん》が少くなり発熱も、低くなり、咳《せき》も少くなった。六月頃まで、横浜、東京間で、二十回位、痰の出たのが、この頃は、二三回である。
 だから、いよいよ又、
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