元の徹夜生活へ戻りかけているのであるが、これが何処まで押し通せるか?
 私は、私の気力だけで癒すつもりをしているが、もし癒ったなら、闘病法を詳しくかくつもりである。無茶に似て無茶に非ず、私とて、今死にたくはない。

    三十一

 そこで、本文へ戻るが、私は、年増に惚れられる位であるから、何処か、いい所がなくてはならぬ筈だと、自分では考えていた(これは逆に、年増しか対手にしないのだから、取り柄の無い男だとも云える。この判断は、自分でよくわからない)。その、いい所は何処であったであろうか、という話であるが――早大グラウンド裏へ移転して、四円八十銭の家に住んだ時、裏手の家(四軒長屋)の妻君が、裏口へ挨拶しにきて
「同国人が入《い》らしたので、大変心強くおもいますわ」
 と、云った。私の女は、腹をかかえて、飛んで上ってきて
「貴下、支那人やわ」
 と、笑いこけた。
「何が支那人だ」
「裏手は支那人やろう。奥さんは、日本人やけど」
「うん」
「その奥さんが、同国人が来たので」
 僕は、苦笑しながら、さては、支那人のように、のんびりしている所があるのかな、と思って
「似た所があるかい」
 と
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