たのか、女学校から、かけ合にきて、びっくりしたのと、こういう話は、二つもっている。
 それから、私が、金を盗んだ話であるが、第五回内国博覧会は、いつだったであろうか、三十五年か、六年とすれば、高等小学三四年であるが、これは細かに憶えている。
 この博覧会に、カーマンセラ嬢電気の舞というのがあった、これを何うかして見たいが見せてくれそうにない。それで、一円盗んで見に行く決心をしたが、貧乏の家に盗める一円なんぞ有ろう筈がない。それで一策を考えて、店の金を入れる張り子の小さい籠を利用する事にした。渋紙張りの汚い四角の籠。上部に太い竹を使ってあるが、この太い竹と、その下に使ってある、へいだ竹との間の渋紙が、破れている。逆様にして、金を出すと、その破れへ一寸引っかかる事がある。私は、その破れを大きくして、その間へ、五十銭を入れる事にした。見つかって、引出せば元々、夜計算をして首尾よく、引っかかったままで通過すれば五十銭になる。
「五十銭足らんがな」
 父は、ぽんぽんと、籠を引っぱたくが、五十銭は、破れ目の奥深く入っていて、出て来ない。
「わて、知りまへんで」
 と、母がいうし、私は一生懸命だ。

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