った。
「君さえかまわなければ話しの残りは途中で聞いても好いと思う、何んだか私には一刻もがまんしている事が出来ないような気がしてならないんだが」
「それはありがたい」と言いながらアンガスも立上って、「今のところではスミスの命にかかわるような事はなかろうと思うがね。何しろ、僕はその家のただ一つの入口に四人の人間を張番させておいたからね」
 彼等は通りに飛出した。小さい坊さんは、小犬の様におとなしく二人の後について来た。そしてさも愉快そうに、「何んて早く雪が積った事じゃろう」と独言をいった。
 もうすでに銀をふりまいたような坂町の街路を縫うて行った時、アンガスの話しは終った。その時すでに彼等は高いヒマイラヤ館のある半円形の通りまで来ていたので、アンガスは四人の見張の様子に目を注いだ。栗売男は金貨を貰う前にも後にも一生けん命に、戸口を見張っていたが訪問者のはいって行く姿は一人も見かけなかったと云った。巡査はなお一層強くそれを主張した。彼は、山高帽をかぶったり、襤褸を身につけたりしたあらゆる悪漢を手にかけた事がある、自分は怪しい人間が怪しい様子をしているだろうなどと予想するような青二才ではない
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