が菫色の縁どりをした東洋風の安楽椅子にすわりながらいった。
「いや、雪が降り出した」と坊さんは静かにいった。
 そして、実際、あの栗売が予言したように、白いものがチラチラと暮れ行く窓硝子に漂った。
「さてフランボー君」とアンガスは口重にいった、「実は僕用件があって来たんだが。それは少し気味の悪るい事件なのでねえ。というのは、この家から目と鼻のところに、気味の助けを至急に要している男が居るのだ。その男はいつも絶えず眼に見えない敵に襲われたり脅迫されたりしているのだ。そしてその悪者をまだ誰も見た者がないというんだが」アンガスは話を進めて、ローラの物語や、また自分自身の事、人気ない四角で幽霊のような笑い声のしたということや、人気のない室《へや》で怪しい人声をはっきりと聞いたということなど、またスミス対ウェルキンの紛糾《いきさつ》を残らず話してきかせると、フランボーは次第に昂奮して来て、傍らの小さい坊さんは、ちょうど家具か何かのように、取残された形になった。話しが飾窓の上に早書きにした印紙の縦列が貼附けてあったと言う所に来るとフランボーは部屋全部にその大きい両方の肩をふくれだすような恰好で立上
前へ 次へ
全37ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング