見えざる人
THE INVISIBLE MAN
チェスタートン Chesterton
直木三十五訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)町《まち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)菓子|店《みせ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)アンガス[#「アンガス」は底本では「カンガス」]
−−

        一

 ロンドン・キャムデン町《まち》なる二つの急な街の侘しい黄昏の中に、角にある菓子屋の店は葉巻の端のように明るかった。あるいはまた花火の尻のように、と言う方がふさわしいかもしれない。なぜなら、その光は多くの鏡に反射して、金色やはなやかな色に彩どられたお菓子の上におどっていた。この火の様な硝子に向って多くの浮浪少年等の鼻が釘づけにされるのであった。あらゆるチョコレートはチョコレートそれ自身よりも結構な赤や金色や緑色の色紙に包まれていた。そして飾窓の大きな白い婚礼菓子は見る人に何となく縁の遠いようにも見えまた自分に満足を与えるようにも見えた。ちょうど北極はすべて喰《た》べるにいいように。こうした虹のような刺戟物
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