を僕に教えてくれればいいんだ」
 それからアンガスは足早に歩み出した、最後にこの護衛された高楼を見あげながら、
「僕はとにかくあの室を包囲した。まさかあの四人がウェルキンの手下ではあるまい」と彼は独言をいった。
 ラクノー館はヒマイラヤ館のある高台よりも一段低い所にある。フランボー氏の半官的事務所はその第一階にあるが、あらゆる点において「雇人いらず」の部屋のアメリカ趣味的、機械的、冷たいホテル式の贅沢さとは著るしい対照をないていた。アンガスの友人であるフランボーは彼の事務所の奥の芸術的なロココ式私室へアンガスを通した。そこには軍刀や、古代の鏡や、東洋の骨董や、伊太利《イタリー》酒の壜や、野蛮人の使用する料理鍋や、羽毛のような毛の生えた一匹のペルシャ猫や、そして小さい薄汚い、どう見てもこの場所に相応しくない一人の羅馬加特力《ローマカトリック》の坊さんが居た。
「この方は友人の師父《しふ》ブラウンです」とフランボーがいった。「かねがね君に紹介しようとは思っていたのだ。今日はどうも大変なお天気だねえ、僕のような南国人にはちょっとこたえるねえ」
「そう、しかし降るような事もないだろう」アンガス
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