戻って来るまでその場を離れぬように、そして、どんなに変った人間がこの家の階段をのぼって行くか、皆覚えているようにという約束を与えた。それから玄関へ差かかると、アンガスは玄関口の使丁にも同じ監視の約束をさせた。なお彼はこの男から、この家には裏口のない事を知った、しかし、これだけではまだ安心が出来ないので彼は、ブラブラしている巡査をつかまえて、玄関口の向側に立って監視しているようにと説き伏せた。最後に彼は栗売男の店に立止ってわずかの栗を買った、そして、栗売がおよそ何時頃までこの附近に店を出しているつもりかを訊ねた。
栗売は上衣の襟を立てながら、どうもこの分では雪が降りそうだから、まもなく店をしまうつもりだと云った。実際、黄昏の空は次第に灰色に、そして陰惨になるつつあった。しかしアンガスは、言葉をつくして、その大道商人をその場所に釘づけにさせようとつとめた。
「まア店の栗でも食って温まっているさ」とアンガスは真顔でいった、「なにそれをみんな平らげても構わんからね。僕が戻って来るまでここに居ってくれたら十円あげるぜ。そら、あの使丁の立ってる家の中へ男でも、女でも、子供でもはいって行ったらそれ
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