るでしょうね」彼は壁にかくしてあるボタンを押した、扉《ドア》は自然に開いた。
 室は奥行が長くて便利な控部屋で特色といっては、仕立屋の人形のように両側に列をつくって並んでいる半人的機械人形があった。仕立屋の人形のように彼等は首無しであった。そしてまた、仕立屋の人形のように彼等は肩のあたりに恰好のいい隆肉と胸部に鳩胸のような凸起をもっていた。そうした特色をのぞくと、彼等は、停車場にある人間大の自動機械と同じで、どうも人間らしくは見えない。彼等は盆を運ぶための、腕のような二つの大きな爪状のものを持っている。そして見別けをつけるために青豌豆色や朱色や黒色に塗られてある。その他の点では、どう見たって自動機械だけにしか見えないので、誰も二度ふりかえって見る者はない。現在この場合には、少なくとも、誰もそうするものはなかった。なぜなら、この二列の人形の中間に、奇妙なものが横わっているので、世界中のどんな機械でもこれほど興味をひくものはあるまいとさえ思われたほどだから。赤インキで乱暴に書いてある白紙の片《きれ》で、疾風のようなこの発明家が先刻|扉《ドア》が開かれるとほとんど同時に、それは引剥がしたもの
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