の。そしてなるべく格好のいいように気をつけて歩いていましたけど、それで、私はその二人がおんなじ週に私に結婚を申込んで来た時には、そりゃ私がどのくらい困ったか、どのくらいおどろいたか、また気の毒に思ったか、解りませんでしたわ。
「さて、その畸形の二人は、いわば私の友達みたようなものでしたから、もし二人が私が申込を拒絶する本当の理由……そんな不格構《ぶかくこう》な人はいやだという理由を‥‥知ったらどう思うだろうかと、私それがおそろしくてなりませんでしたの。それで私は、これは何んでも口から出まかせの口実をいうに限ると思って、自分の力で世の中に出た人でなければ結婚するのはいやだといいましたの。そしてちょうどあなた達のように親譲りの財産やなんかで暮したくないのが私の主義なんですからといってやりましたのよ。ところがね、私がそんないい加げんな事をいってから二日|後《のち》にとんだ災難が起りましたの。第一に私の耳にはいった事は、両人とも何か幸運を探そうというのでどこかへ出かけたという噂でした、ちょうどお伽噺か何かのようにね。
「さて、その日以来というもの、私は二人の姿を見かけませんでしたの。しかしその小男のスミスの方からは手紙が二通来ましたの、それが大変な手紙でしたわ」
「もう一人の方からは便りがなかったのかい?」とアンガスが訊いた。
「いいえ、ウェルキンからは何んにも」と女はちょっと口籠っていった。「スミスから来た最初の手紙には、スミスがウェルキンと連立って倫敦《ロンドン》へ徒歩旅行を始めたという事が書いてありました。けれどウェルキンは有名な足達者だものですから、小男のスミスは取残されて路傍に休んでいると、ちょうどそこを通りかかった旅興行師に拾われて、自分が侏儒に近いのと、根が悧巧者なので、見世物の仕事にだんだん成功して、まもなく、水族館へ送られて、私何か忘れましたけど曲芸をする事になったという事でしたの。それが最初の手紙なんですけど、二度目のこそは本当にびっくりするような手紙で、それも私つい先週受取ったばかりなんですの。」
アンガスと呼ばれるその青年は珈琲《コーヒー》を飲みほして、やさしげな眼光《まなざし》をしながら根気よく女の顔を見据えていた。女は口元でちょっと笑ってまた語《ことば》をついだ。「ねえ、たぶんあなたも方々の広告欄で『スミス式雇人いらず』っていうのを御覧になったことがあるでしょう? もしなければそれはあなた一人だけよ。私はよくは知りませんけど、何でも人形みたいなものが家《うち》の中をぜんまい仕掛で働くのだそうですの。そうそうこんな事が広告に書いてありますの『ボタンをおすべし、――決して酒を飲まない給仕人』『ハンドルをまわすべし――決していちゃ[#「いちゃ」に傍点]つかない十人の女中』だなんていうんですの。きっとあなたも広告を御らんになったにちがいありませんわ。とにかくその機械がどんなものであっても、以前あのラドベリーの腕白小僧だったスミスの弗《ドル》箱になっているんですの、あの侏儒が今じゃあ、まあとにかく、自分でやって行けるようになったのは、私としても嬉しくない事はない……とはいうものの、今にもあの男が現われて、サアわしはこの通りに少しは世の中に知られる男になったからと……また実際その通りなんですけど……言込んで来はしまいかと、私それが怖くて仕方がないんですわ」
「それから、も一人のほうは?」アンガスは落付払ってまたくりかえした。
ローラ・ホープは突然立上った。「まああなた」と彼女はいった。「お巫女さんね。そうよあなたのおっしゃる通りよ。も一人のほうはただの一度だって何とも言っては来ないのです、ほんとにどこにどうしているんだか、死んだ人のように消息がわからないんですもの、しかし私が余計怖れているのはこの人の方ですわ、私の行くさきざきに付纒って、私の気を狂うようにさせるんですもの。ほんとに私はあの男は私を気狂《きちが》いにしてしまうように思いますわ。なぜって、私はあの男のいるはずのない所にあの男の気配を感じます、あの男がしゃべるはずのない所であの男の声をききますの」
「ウン、なるほど」と青年は愉快そうに言った、「もしその男が悪魔そのものなら、君が他人に話したので今頃はもう往生したろう。だがしかし君はいつその籔睨の気配や声を感じたり聞いたりしたのかね?」
「エエ私がこうしてあなたのお声をきいてるように、ウェルキンの笑い声をきいたんですの」と女は真顔になっていった。「それは店の外の四ツ角の所に私が立っていた時でしたが、四方の街が見透せてあたりには誰アれもいない時の事でした。私はあの男の笑い声等はもう忘れていたんですけど、そりああの男の笑声といったら、あの籔睨の眼付のように滑稽でしたのよ。私はもう一年近くも彼の事などは考えた事は
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