て――」
「馬鹿っ、鉄砲隊に、あれだけ威張っておいて、今更頼みに行けるか」
人々は、怒りと、無念さと、屈辱とに、逆上しながら、じりじり這って退いた。
正月元日だった。吹き下してくる風が、凍っていて、時々、顔へ砂をぶっかけた。硝煙の臭が、流れてきた。
鎧が、考えていたよりも重いし、這うのに、草摺《くさずり》が邪魔になった。袴をつけている人は、平絹の、仙台平《せんだいひら》のいい袴を土まみれにしていたし、黒縮緬の羽織に、紐《ひも》をかけ、竹胴をつけている人は、水たまりに袖を汚していた。
組の者の外に、誰も見てはいなかったが、敵の前で、這っているのを、自分で、苦笑し、侮蔑《ぶべつ》し――だが
(次の戦いで)
と、思って、慰めていた。土方が
「上村、貴公、鉄砲が打てるか」
と聞いた。
「打てませぬ」
「竜公、貴様は?」
「あんな物位、すぐに――」
土方は大声で
「組に、鉄砲の打てる者はいるか」
と、這い乍ら叫んだ。
「三|匁玉《もんめだま》なら」
遠くで答えた。
「スナイドルか、ジーベルじゃ」
「毛唐の鉄砲は、打てん」
「誰もないか」
誰も答えなかった。
三
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