周章てて、砲口を上下させたりしていた。一人が、向鉢巻をして
「判った」
と、叫んで
「除《の》けっ、微塵《みじん》になるぞっ」
口火をつけた。兵は、耳の、があーンと鳴るのを感じた。空気が裂けたような音がした。その瞬間、すぐ前の木が、二つに折れて、白い骨を現したかと思うと、土煙が、土俵の前で、四五尺も立昇った。
味方の弾丸は、前方の煙の中へ落ちて、土煙を上げた。
(今に、破裂する)
と、兵も、近藤も、土方も、じっと凝視《みつ》めていた。だが、破裂しなかった。
「口火を切ってない」
一人が、周章てて、弾丸の口火をつけて、押込んだ。銃声と、砲声とが、入り乱れてきた。兵の後方で、土煙が噴出した。山鳴がして、兵の頭へ、雨のように降ってきた。七八人の兵が、堡塁の所へ、しゃがんでしまった。
四十挺の鉄砲方の外の人々は、槍と、刀とを構えて、堡塁から、顔だけ出していた。一人が堡塁へのしかかるように、身体を寄せて敵の前進を眺めていた。
(成る程、遠くまで届くものだな)
近藤は、立木の背後で、散兵線を作って、整然として、少しずつ前進してくる敵に、軽蔑と、感心とを混合して、眺めていた。
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