肩へつけた。近藤が
「馬鹿なっ」
と、呟いて微笑した。そして、側の兵に
「撃ってみろ」
と云った、兵は、すぐ射撃した。近藤は、飛出す弾丸を見ようとしていたが、ばあーんと、音が、木魂《こだま》しただけで弾丸の飛ぶ筋が見えなかった。
(慣れたら、見えるだろう)
と、思った。
「もう一発」
「隊長殿、ここからだと、遠すぎますよ」
「黙って打て」
勇は、白いものが、眼を掠《かす》めたように感じた。
(あれが、弾丸の道だ。研究して見えぬ事は無い)
と思った。
前面の野、林、道に、一斉に白煙が、濛々《もうもう》と立ち込めた瞬間、銃声が、山へ素晴らしく反響して、轟《とどろ》き渡った。と、同時に、ぶすっという音がして、土俵へ弾丸が当ったらしかった。近藤は、振向いて、何処へ当ったか見ようとしたが、判らなかった。びゅーん、と耳を掠めた。
白煙が、一杯に、低く這ったり、流れたりして、兵も、土地も林も判らなくなった。その煙の下から、敵が、又前進しかけた。土方が、大声で
「撃てっ」
と叫んだ。
「大砲っ」
「大砲、何してるかっ」
兵が、怒鳴った。後方の大砲方は、身体をかがめて、大砲を覗いたり、
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