もなかった。
 風呂敷、米俵の類を集めて、土俵、土嚢《どのう》を造った。隊士も、百姓も、土を掘って米俵へつめては、篝火《かがりび》の燃えている下へ、いくつも積上げた。力のある者は、石を転がしたり、抱上げたりして、土俵の間へ石を置いた。そして二尺高い堡塁が、半町余りの所に、点々として、木と木の間へ出来上った。
 金千代と、竜作とは、炊事方になって、村の中から、女、子供に差図して、兵糧を運ばせた。沢庵《たくあん》と、握飯が、すぐ冷えて人々は、昨日までの、女と、酒とを思出した。
 夜半から、又、雪がちらちらしかけた。人々は、茣蓆《むしろ》を頭からかぶったり、近くの家の中へ入ったり、篝火を取巻いたりして、初めて経験する戦争の前夜を、不安と、興奮とで明かした。

      六

 山裾の小川沿いに、正面の街道から、田の畝《あぜ》づたいに、敵が近づいてきた。だん袋を履《は》いて、陣笠をかむり、兵児帯《へこおび》に、刀を差して、肩から白い包を背負った兵であった。
 四五丁の所で、右へ走ったり、左右に展開したりして、横列になった。そして小走りに進み乍ら、銃を構えた。隊長が、何かいうと、折敷いて、銃を
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