七
近藤は、刀へ手をかけて、弾丸の隙をねらっているように――実際、近藤は、びゅーんと、絶間なく飛んでくる弾丸に、激怒と、堪えきれぬうるささとを感じていた。一寸《ちょっと》した隙さえあったなら、その音の中の隙をくぐって、斬崩す事ができると考えていた。
「くそっ」
誰かが、こう叫ぶ声がすると、大きい身体と、白刃とが近藤の眼の隅に閃いた。
(やったな)
と、一足踏出した途端、その男は、刀を頭上に振上げたまま、よろめきよろめき二三歩進んだ。そして、地の凹《へこ》みに足をとられて、立木へ倒れかかって、やっと、左手で、木に縋《すが》って支えた。
(負傷したな)
と、近藤は思った。
(鈴田だ)
その男が、立木へ手をかけて俯《うつむ》いた横顔をみて思った。その途端鈴田の凭れている木の枝が、べきんと、裂《さ》き折れて、大きい枝が、鈴田の頭、すれすれにぶら下った。
「鈴田っ」
鈴田の脚元に、小さい土煙が立った。鈴田は、刀を杖に、よろめきつつ、二三歩引返すと、倒れてしまった。
敵の兵は、未だ一町余の下にいた。そして、立木の蔭、田の畔《あぜ》、百姓家の壁に隠れて、白い煙を、上げているだけ
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