ら、動こうと、じっとこっちを眺めていた。
 頭の上を、近く、遠く、びゅーん、と音立てて、弾丸《たま》がひっきり無しに飛んでいた。周囲の兵は、皆地に伏して、頭を持上げて、坂上の敵を睨《にら》んでいたが、誰も立つものは無かった。
 一人が、槍をもって、甲《かぶと》をつけた頭を持上げながら、腹|這《ば》いに進んでいた。その後方から、竹胴に、白袴《しろばかま》をつけ、鉢巻をしたのが、同じように、少しずつ、前進していた。
「危いぞ」
 銃声は聞えていたが、外から、耳へ入るので無く、耳の底のどっかで、唸《うな》っているように感じた。前方の地に、小さい土煙が、いくつも上った。
「あっ」
 と、叫んだ声がしたので、振向くと、一人が、額から、血を噴き出させて、がくりと前へ倒れてしまった。
 御香ノ宮の塀に、硝煙の中から、ちらちら敵兵の姿が見えてきた。土方は、その姿が眼に入ると共に
「おのれ」
 と、叫んで、憤怒《ふんぬ》が、血管の中を、熱く逆流した。その瞬間、七八人の兵が
「出たっ、芋侍《いもざむらい》っ」
 と、いう叫びと共に、憑《つ》かれた獣《けだもの》のように、走り出した。真中の一人が、よろめいた
前へ 次へ
全31ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング