「顔で無いと――鎧《よろい》を射抜く筈《はず》は無いと――」
 土方は、洋式鉄砲の威力が何《ど》の位のものか、この戦争が最初の経験であった。味方のフランス式伝習隊の兵を見ると、旗本のへっぴり侍ばかりで薩摩《さつま》のイギリス仕込みだって、これと同じだろう。
(いよいよ斬込《きりこ》みとなったなら鉄砲なんか何の役に――)
 と、思っていたが、半町の距離で、この程度の威力を発揮するとしたなら、研究しておく必要があると思った。
 そして、右手で、肩を掴《つか》んで真向《まむ》けに転がすと、半分眼を開いて血に塗《まみ》れた口を、大きく開けて死んでいたが、顔には、何処も傷が無かった。
(鎧の胴を通すかしら)
 土方が、胴をみると、小さい穴があいていた。丁度、肺の所だった。
 顔を上げると、御香《ごこう》ノ宮《みや》の白い塀の上に、硝煙が、噴出しては、風に散り、散っては、噴き出し、それと同時に、凄《すさ》まじい音が、森に空に、家々に反響していた。
 いつの間に進んだのか、五六人の兵が、往来に倒れていた。両側の民家の軒下の何処にも、四五人ずつ、槍を提げて、突立っていた。そして、土方が、何か指図をした
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