から借入れる外、方法がつかなかった、そして二人の貰った軍用金とて、少額なものであった。
「人気は悪いし――これで、負け戦《いくさ》になったら。今までさえ食え無いのが、何うなるだろう」
「そんな事を心配していたって――」
金千代は、そう云ったが、江戸へ入ると、幸運が、逃げてしまいそうにも思えた。旗本の相当の人で、蚊帳《かや》の無い人があった。鎧をもっている人は稀《まれ》だった。百石百両という相場で、旗本の株を町人に譲って、隠居する人が、多かった。それで、堪えきれ無くなって旗本から、将軍へ出した事があった。
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「質主と申者《もうすもの》御座候、武器、衣類、大小、道具等右質屋へ預り其値半減、或は三分の一の金高を貸渡、利分は高利にて請取候、武家にても極難儀にて金子才覚仕候ても、貸呉候者御座無候節は」
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という有様であった。そして、旗本はその中で、三味《しゃみ》、手踊を習っていた。
「甲府へ立籠《たてこも》って――」
という声がした。二人が、振向くと、近藤と、土方とであった。二人は、丁寧に、御叩頭をした。
「八王子には千人同心が、少くとも二小隊
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