のか」
「はい」
「貴公ら、早く江戸へ戻れ」
「はい」
旗本はそう答え乍ら、衰弱的な眼で、土方を見上げた。
戻る道――それは、何《ど》う成っているか判らなかった。戻っても、何うなるかを江戸にいて、鎧まで金に代えていた旗本であった。軍用金をいくらか貰って、ようよう息をついできた人であった。
(新撰組の人達は、一人でも、暮らして行ける人だから――)
と、考えていた。
「貴隊へ御加えの程を――」
土方は、返事をしないで入って行った。
「御勝手方は、何処だ。食事だ。食事だ」
と、二三人が云った。
「手前が、心得ております。只今、話してきます」
旗本の一人が走出すと、残りの人々も
「暫く、おまち下さい」
と云って、走って行った。
五
近藤勇は、黒縮緬の羽織、着物で、着流しのまま坐っていた。
「敗けたか」
口許に、微かな笑《えみ》を見せて、じっと、土方の顔をみた。
「見事――総敗軍」
「何うして」
「手も足も出ぬ。鉄砲だ」
「鉄砲?」
「うん」
「鉄砲に、手も足も出んとは?」
「貴公は、三匁と、五匁位より知らん。あいつは、五十間せいぜい六十間で当てるのはむずかしい
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