が、ぶつかり合った。
「上り舟や、客はないか」
 と、船頭が叫んだ。それを、橋の上から
「木津|迄《まで》なんぼや」
 と、手をあげていた。そういう喧騒《けんそう》を、橋に、肱《ひじ》をついて、呆然《ぼうぜん》と見下ろしている人もあった。
「あら、新撰組や、新撰組も、負けはったらしいな」
「近藤さんや、あの人が」
「あら、土方やがな。近藤さんは、墨染で、鉄砲で打たれた人で、御城で、養生してはんがな」
 町の中も、車と人とで一杯だった。夕方か、明日、薩長の兵が乱入してくるという噂が立っていた。
 新撰組の人々は、町人も武士も突除けて、小走りに、城へ急いだ。高麗橋口へかかると、馬上の人が、徒歩の人が、激しく出入していた。いつも、右側に、袴をつけて、番所の中に忝《かしこ》まっている番人が、一人もいなかった。
 石段を走り上って、中の丸へ入ると、鎧をつけた人が立っていた。一人が、その側を通りがしらに
「鎧は役に立たぬ」
 と、云った。その男は、何を云われたか判らぬらしく、新撰組を見送っていた。
 百畳敷の前へきた時、土方が
「ここで待てっ」
 と、叫んだ。そして、旗本を見ると
「未だついてきた
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