か手柄したか」
「中々、鉄砲が――」
「鉄砲が、恐ろしいか」
「貴下方のように、胆が勝《すぐ》れていませんので、つい――」
土方が
「鉄砲は、胆を選り好みしないよ」
「あはははは」
と、大声で笑った。
川堤には、引っきり無しに、敗兵が、走ったり、歩いたり、肩にすがったり、跛を引いたり――ある者は何の武器も持たず、ある者は、槍を杖《つえ》に――川の方を眺め乍ら、つづいて居た。
微《かす》かに、大砲の音が、時々響いてきた。
四
天満橋《てんまばし》も、高麗橋《こうらいばし》も、思案橋《しあんばし》も、舟の着く所は、悉《ことごと》く、舟だった。船頭の叫びと、人々の周章《あわ》てた声と、手足と、荷物と、怒りと、喧嘩《けんか》とで充満していた。
新撰組の人々は、槍で、手で、他の舟を押除けながら、石垣の方へ、近づけた。町人の女房が、子供が、男が、老人が、風呂敷包を背に、行李を肩に
「岩田屋の船頭はん、何処やあ」
とか
「この子、しっかり、手もってんか、はぐれたら、知らんし」
とか、叫び乍ら、自分の舟へ、人混の中を押合って降りていた。そして、舟から上る人と、下りる人と
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