りもうしそろ》、明朝ハ爰元船ニテ向島ヘ渡候事、少シモ支無御座候《さしつかえなくござそろ》、能《よき》時分|参可申候間《まいりもうすべくそろあいだ》、左様ニ可被思召候《おぼしめさるべくそろ》已上《いじょう》
[#地から1字上げ]宮本武蔵
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      四月十二日

    佐渡守様

         三

 四月十三日、眠りの楽しい時である。春眠|暁《あかつき》を覚えず、所々に啼鳥を聞く――朝寝をするに一番いい時。七時すぎ八時近くなっても武蔵は起出て来ない。亭主太郎左衛門、
「旦那、辰の刻ですよ」
 としばしば――起している所へ、小倉から長岡佐渡の使がくる。
「程なく参る。よろしく御伝え下されい」
 と挨拶してから朝飯を済まし、亭主から楫《かい》を一本買受けて、小刀で削《けず》り始めた。が、朝寝をしている間に、可成り小次郎への対策を考えていたらしい。作戦計画については周到な用意をする武蔵は、小次郎の門人に彼の太刀筋を聞くし、それと自分が聞いていた小次郎の勝負の様子を考え、それからこの楫を買求めたのである。
 何故《なぜ》かというと、この位の名人上手同志の試合に
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