》人に致されずして疾《はや》く其位を取るは当の一的なり。もし夫《それ》血気に乗じて無落著《ぶおちつき》する者は我刃《わがやいば》を以て独り身を害するが如し。
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一刀斎先生剣法書に一箇条「間」の説明である。武蔵と小次郎との試合を説明せんが為めに書いたと同様に上手に「間」の事を説いている。
四
倒れている小次郎の側へ近々と近寄って二度目の気合をかける「間」小次郎の備前長光、横に一薙《ひとなぎ》すると、武蔵の膝を掠《かす》めて垂れていた袷の裾三尺余り切れて落ちる。と共に小次郎の脇腹の骨が折れて、口と鼻とから鮮血が流れ出た。
武蔵という人は身の丈六尺、力が強かった。ある人、差物竿にするから竹を選んでくれというと、武蔵竹を右手にとって、びゅっと振ると、竹が砕けてしまったというから凄いものである。この大力で打たれては小次郎も堪らない。
武蔵は暫く小次郎の面《おもて》を凝視《みつ》めていたが、木刀を捨てて膝をつき、小次郎の口へ手を当てて呼吸を窺っていた。それから眼瞼《まぶた》を押開いてみて瞳を見た。手を離すと共に、遥かに控えている検使に一礼して木
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