、小次郎はどっと倒れてしまうし、武蔵の鉢巻の手拭が切れて落ちた。
伊藤一刀斎は云う。
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勝負の要は間也《かんなり》。我《われ》利せんと欲せば彼又利せんと欲す。我往かば彼|亦《また》来る。勝負の肝要|此《この》間にあり。故《ゆえ》に吾伝の間積りと云うは位《くらい》拍子に乗ずるを云う也。敵に向って其《その》間に一毛を|不[#レ]容《いれず》、其|危亡《きぼう》を顧《かえりみ》ず、速く乗て殺活し、当的よく本位を奪うて|可[#レ]至者也《いたるべきものなり》。若《も》し一心|間《かん》に止まるときは変を失す。我心《わがこころ》間に拘わらざる時は、間は明白にして其位《そのくらい》にあり。故に心に間を止めず間に心を止めずよく水月の本心と云う也。故に求むればこれ月に非ず、一心清静にして曇りなき時は万方皆これ月の如く|不[#レ]至《いたらず》と云う所なし。
古語に曰《いわ》く、|遠不[#レ]慮《とおくおもんぱからざれば》則《すなわち》必《かならず》|在[#二]近憂[#一]《ちかきうれいあり》と、故に間に遠近の差別なく其間を|不[#レ]守《まもらず》、其変を|不[#レ]待《またず
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