中の奴等は、わし一人を、いじめている)
と、いう風に感じた。そして、開いている襖から、顔を出して
「お揃いだな」
と、少し、蒼白くなった額をして、中へ入った。人々は半兵衛を見上げて、暫《しばら》く黙ったが、一人が半兵衛が坐ると同時に
「お聞きしたいが」
と、膝を向けた。
「何を?」
「将軍家御前試合に、荒木又右衛門が加わったと申すが、何故、荒木の如き、田舎侍が、歴々の中へ加わったので御座ろうか? 是水軒にしても、一伝斎にしても、一心斎にしても、天下高名な剣客であるのに、郡山藩の師範として、高々二百石位の荒木が、何故、この尊い試合に加えられたか、合点が行かぬ」
「腕が優れているからであろう」
と、一人が云った。半兵衛が
「それも、そうだが、荒木は、柳生|宗矩《むねのり》殿の弟子として、又右衛門という但馬守殿の通称を、譲られた位の愛《まな》弟子故と――今一つは、例の河合又五郎の一件に、助太刀をしてもおるし、一期の晴れの場所故、一生の思出として、荒木も出たかろうし、但馬殿も、出したかったのであろう」
「成る程、そういう事情があるかもしれぬ。対手は、宮本武蔵の忰八五郎だというが、これは
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