使手《つかいて》で御座ろうか」
「武蔵が、好んで、養子にした者なら、申すに及ぶまい」
「では、勝負は?」
「それは判らぬ」
「二百石なら、貴殿も、二百石で、大した相違が、禄高から申せば無い訳だが、矢張り、ちがうものかの。甚だぶしつけだが、もし、荒木と立合えば、貴殿との勝負は?」
半兵衛は、固い微笑をして、
「時の運」
と、一言云った。人々は、余りに、ぶしつけな質問をしたのに、興をさまして、黙っていると、半兵衛が
「槍をとれば、大言ながら、相打ちにまでは勝負しよう」
そう云うと、立上った。問うた者が、周章《あわ》てて
「桜井氏、御立腹なさらぬよう」
と、叫んだが、もう、半兵衛は廊下へ出てしまっていた。
(同じ二百石。荒木と、わしと――だが、荒木は御前試合に出て、剣士一代の晴れの勝負をしたし、わしは、この田舎で、一生、田舎武士の師範で、朽ちるのだ)
そう思うと、堪らなく、不快に――歩いている左右の家々も、樹々も、空気も――岐阜の一切が嫌になってきた。
(又五郎の事など、何うでもよい。荒木と、わしとを較べて、わしがそんなに、劣っているか、何うか? 自慢をするのでは無いが、わしも、一
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