るだろう。それはちがうぞ。わしは、槍さえとれば、荒木に五分の勝負は、できるんだ。誰か、荒木に、半兵衛に槍をやれ、荒木卑怯だと、云ってくれるものは無いかしら――いいや、そんな事を考えるのは、卑怯だ。わしの不得手な太刀で、何《ど》れだけ、荒木と戦えるか? 勝敗は別として、わしが、何れだけ立派に戦ったか。それでいいのだ。わしの、立派に戦った事が、国の人へ判るなら、半兵衛が、あの時、槍さえもっていたなら、荒木と互角だと、云ってくれるだろう。槍持が、荒木の計にのったのは、わしの運のつきる所だ。わしは、太刀で、立派に荒木と戦って、立派に、負けてやろう。武士の重んじる所は、勝敗ではない。勝負は末だ。勝負をしている時の態度だ)
半兵衛は、青眼につけて、荒木と向合った。そして、そのまま、お互に動かなかった。
何の位経ったか、半兵衛には、判らなかった。呼吸が苦しくなり、汗が滲んできた。そして、荒木も、もう微笑を消して、眼を異様に光らせて――それは、可成りに、切迫している表情であった。
(わしは、わしの不得手な太刀打でも、これまでに試合した。もうこれで十分だ。この大勢の見物の中には、心ある人も、眼の開い
前へ
次へ
全28ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
直木 三十五 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング