間に聞いても、腕は、叔父も、荒木も互角だが、人気は荒木の方が高い。その高い訳は、稽古は、上手下手の手加減がある。然し、叔父には、ただ荒稽古だけだと――」
「それでよいのだ。わしの荒稽古一つ受けられん奴が、一朝事のあった時、馬前の役に立つものか。荒木の稽古で、下手が少々上達したとて、そんな稽古の剣術は、真剣の時の物の役には立たぬ、剣術とは、徒らに竹刀の末の技では無いぞ。いざと云えば、火水の中へも飛込む肚を慥《こしら》えるものだ。お前なぞ、その肚が、一番に出来とらんぞ」
半兵衛は、荒木の稽古振りが判るような気がした。甚左衛門は、己の腕をたのんで、敵を知ろうとしないが、荒木は、己を知り、敵をも知ろうとしていると、考えた。
「半兵衛が来た上は、こんな所に、手間どっている必要は無い。早々に、江戸へ立とう、二百石の格式通り、弓、槍を立てて、いつ荒木と出逢ってもよいようにして、白昼堂々江戸へ入ろう。よし、討っても、討たれても、それが、武士らしい態度だ。ならば、旗でも立てて、河合又五郎一行と書きたいが、そうもならんでのう、半兵衛」
甚左衛門は、又、大きく笑った。
七
馬は、霜柱を、さ
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