も、斬込んだなら、よし、討たれるにせよ、一働き働いて死ぬなら武名は、後世に残るが、此奴には、その覚悟がない」
「死ぬよりは、生きている方が、おもしろいからなあ。又五郎。近頃の若い士は、武士の面目ということよりも、金と、女と、長生きという事の方を尊ぶようになった。時勢らしい」
と、半兵衛が、笑った。そして
「河合殿と、荒木とは、御同藩だが、荒木は、何ういう腕、人物――」
「彼奴、但馬のお気に入りで、今度も、名誉な試合に出たが、腕は、さのみ、わしに優っておろうとは思わぬ。もし、今にも、彼奴と逢えば、勝負は時の運と申そうか? 紙一重と申そうか。必ず討つとも云えぬし、必ず討たれるとも申せぬ。人物は――まず、上出来かのう。わしよりは、当世であろうか、わしは、此奴が、只一人で、江戸を追われたと聞いた時、すぐ、助太刀をしてやろうと、殿へ御暇を頂戴したが、何を考えたか、荒木という奴は、余程経たんと、お暇をとらなかった。あの間考えているだけ、わしより、分別があるのかのう。あはははは」
又五郎が、半兵衛に
「叔父は、古武士気質と申そうか、一徹者で、何か荒木の計にかかるように思えてならん。郡山の藩中の人
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