るとは、夫よりも、荒木がえらい、という事を、知らせる事では御座りませぬ――でも、荒木様は夫の事を、訊ねに――)
と、夫の噂を聞いて、大敵とおもい、様子を尋ねに来た又右衛門の事を考えると、夫を殺す敵だと、思うよりも、夫を理解し、知っていてくれる人だと感じて、何かしら、親しみさえ感じてきた。
六
又五郎は、奈良手貝、河合甚左衛門の仮宅に、身を寄せていた。
江戸から、広島へ、広島から、大阪、奈良へと、己の身体を匿《かく》すのに忙がしかった又五郎は、すっかり、陽に灼けて、旅窶《たびやつ》れがしていた。半兵衛には、それが、可哀そうに見えるよりも、意気地無しのように見えた。そして、それは、又五郎の叔父の、甚左衛門も、同じことであった。甚左衛門は、半兵衛が、知行を捨てて、加勢に来てくれたのを見て、又五郎に
「貴様、のめのめして逃廻るから、皆が、迷惑する」
と、笑いながら云った。そして
「旗本への手前――旗本が、あれだけ援けて、かばってくれた手前、易々と、池田の者へ首は渡せんから、匿れるのも尤もだが、然し、逃廻ったのは、面白うない。河合又五郎宿泊と、立札でも建てて、もし、池田の者で
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