の顔へ、吹っかけて、
「その代り、癒《なお》れば、元々どおりに、愛してやってもいいわ。」
「僕は、どう成るんです、その時――」
「判らない。」
「二つの場合がありますね。」
「そうよ。」
夫人は、そういって、重ねている左脚の先で、男の、靴を押した。
「一つはさよなら、一つはこのまま。」
「そうよ。」
「一体、どっちなんです。」
「そんな事、今から考えてどうするの。」
「だって、僕にとっては、重要問題です。」
「さよなら、をすると、いったら、現在の状態が、変化する?」
「いくらか――」
「気持の上で。」
「ええ。」
「じゃあ、変化するがいいわ。さよなら、をするわ。さ、変化して頂戴。」
夫人は、顔を正面にして、男を見た。
「どう変化した?」
「そう、急には。」
「変れない?」
「だって――さよならが、嘘だか、本当だか――」
「本当にするのよ。だから、変って頂戴。」
男は、夫人の頸を、引寄せようとした。夫人は、その手を掴んで、
「変らなけりゃ、嫌。」
男は、黙って、夫人の左手をとった。夫人は、身体を反らして、
「変れないの?」
「よく考えておきましょう。」
「そう、よく考えておくって
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