無理を――」
「判ってる。」
 看護婦が去った。俊太郎は、仰向きになったまま、暫くじっとしていたが、いつも、ロボットを置いてある、扉の所から、ベッドまでの距離を、頭の中で計りながら、(ベッドに、重量が加わると同時に、ロボットが、自動運動を始めて、ベッドの方へ来る装置――ベッドの下のバネが――そうだ、バネが、リズミカルに、動く――その、ある度数を経た時に、ロボットが、行動を起す――それがいい。装置は、簡単だ)
 俊太郎は、そう考えて、
「第二の贈物だ。」
 と、呟いた。

    三

 夫人は、和服で、膝を重ねていた。絨氈《じゅうたん》の上に、長襦袢の裾が、垂れていた。クッションの中へ、埋まって、煙草を喫いながら、
「そりゃ、愛してるわ。」
 男を、そういって、ちらっと見て、男の眼の微笑を見ると同時に、
「正確にいうと、愛していた、だわ」
「病気になったり、愛されなくなったり――二重に不幸ですね。」
「自ら招いた責任よ。夫の資格が、半分無くなっているのに、妾《わたし》にだけ、同じでいろなんて、不合理よ。」
 男は、左手を、椅子の後方へ廻して、夫人の、頸《くび》を抱いた。夫人は、煙を、男
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