見ると、
「あら。」
 それは、動いてはならぬ病人の不謹慎さを叱責する声であった。俊太郎は、険しい眼をして、
「ここへ、一寸、腰をかけて。」
 ベッドを、指した。
「お起きになっては、御身体に、大変さわりますよ。」
「ここへ、かけてくれ給え。」
 そういって、俊太郎は、ベッドの中へ、入った。看護婦が毛布を着せた。
「かけ給えったら。」
「かけるだけでございますか。」
 女は、ベッドの端で、いった。俊太郎は、頷いた。そしてロボットを見ていた。看護婦が、ベッドへ腰を降ろすと同時に、ロボットは、投出していた両手で――右手は、ベッドの端を左手で下の毛布を掴んだ。そして、把握力が加わってくるらしく、毛布を掴んだまま、俊太郎の身体ぐるみ、じりじりと、自分の方へ引寄せて、両手で、胸を抱くように――右手は、藁蒲団《わらぶとん》ぐるみ、強烈な力で、引寄せかけた。
「よしっ、立って。」
 俊太郎が、こういって、看護婦が立つと同時に、ロボットは、操作を止めた。
「あっちへ行って――」
「ええ、そのロボット――」
 看護婦は、俊太郎の、病的な神経を恐れながら、そういうと、
「もう用はない。」
「はい――余り、
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