よくなってね。」
 夫は、疲労した瞳を、部屋の扉《ドア》の所へやった。
「あの、ロボット。」
 夫人は、振向きもしないで、
「早くよくなって、又、これを、二人の物にしましょうよ。」
「あの三号のロボットを俺だと思って――」
 俊太郎は、夫人の指を握りしめて、愛の印を与えた。
「嫌よ、そんなこと。貴下《あなた》、頭が、どうかしているわ。さ暫く、お眠《やす》みなさいね。」
 夫人は、手を引いた。
「俺は、そういうように、特種な設計をしておいたんだ。」
「嫌、嫌。」
 夫人は、椅子から立上った。そして、扉の方を見た。扉の傍に、精巧な、軽金属製のロボット――侵入者を防ぐためのロボットが、冷かに立っていた。青い服を着て、手袋をはめて、パリから来た、一九三六年型の、パリ女の好みの顔立をして、じっと、夫人を眺めていた。

    二

 俊太郎は、ベッドの上へ起上った。湿《うる》おいの、無くなった眼、眼瞼《まぶた》の周囲に、薄暗く滲出《にじみだ》している死の影、尖った頬骨、太くせり出したこめかみの血管――そんなものが、青磁色の電燈カバーに、気味悪く照し出されていた。
 その、ベッドの側に、合成アルミ
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