人との比較を、頭の中で、灼けつくように考えていた。
「もう、四時だわ。お薬を上る時間よ。」
夫人は、腕時計をみて、(もう来る時分《じぶん》だのに――)と思った。
「侵入者を防ぐためのロボットで、自分を壊さぬよう注意してくれ。ね。」
「ええ。」
そう答えた時、看護婦が、ノックして入ってきた。
五
「実に、精巧なものだ。ちっとも、人間とちがわんじゃないか。」
告別式に来た人々は、ロボットの手を握ったり、頬を撫でたりして称《ほ》めた。
「称めていいか、けなしていいか――宗教が、人間を救った方が多いか、苦しめ、迷わした方が多いか、判らないように、科学の発達も、功罪不明だね。」
「ロボットのごとき、明かに、人間の職を奪ったからね。」
人々は、壁の所の椅子に凭れて、煙を、部屋中に立籠《たちこ》めながら、話声を、充満させていた。
「全く、科学上の一つの重大発見は、社会の、経済の、根底を動揺させるからね。レーヨンの発達が、生糸を圧迫し、生糸の生産原価の低廉が、綿糸へ影響し、そのレーヨンが、近来、人造羊毛のために、四苦八苦しているなんざ、よくしたものさ。」
「アメリカでは、携帯用のロ
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