」
「殺す。」
夫人は、黙って――だが、心の中では、この執拗な愛に、憎悪と、軽蔑とを感じて、
「そう。」
と、一言だけ、軽くいった。
「もう、二、三日しかもつまいが――俺は、俺の精神をこめた、三号ロボ以外に、御前を渡したくないんだ。」
「また始まったのね。よく、判っているわ。」
「俺にも、よく判っているから、幾度もいうんだ。御前は、もう、独身で居れなくなっているから――」
「だから、ロボさんを愛していたらいいじゃないの。」
窓は半分閉じて、カーテンがかかっていたし、ベッドの半分にも、カーテンがかかっていた。壁の織物、クルミ床の上の支那絨氈、大きいスタンド、白大理石の鏡台、そんな物が、悉く、陰鬱に、黙り込んでいた。夫人は、
(誰か、見舞人でも、来ないかしら)
と、ちらっと、考えたり、ロボットの巧妙な、そして、人間とはちがった異状な感覚を、回想したりしていた。
「ロボットの霊魂――あるよ。」
俊太郎は、呟いた。
「嫉妬する?」
「ロボットは、御意《ぎょい》のままか、然《しか》らずんば、破壊か、だ。」
「そうね。」
夫人は、口だけで答えた。そして、機械人《ロボット》と、新らしい愛
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