棕櫚箒のやうにした山の上《かみ》さんが、「そんなことを言つたつて、中々掘るが難儀だでな……」などと言つて、白い衣を着た莞爾《にこ/\》した老僧と相對してゐるさまは到る處で見懸けた。
たら[#「たら」に傍点]の芽はさうした食物の中で殊に美味であるが、それも山深く入ればかなりにある。山蕗は夏の盛りに行つても、もつと遲く秋になつてからでも、柔かな旨いヤツ[#「ヤツ」に傍点]が食はれる。それと言ふのも、六月に石楠花《しやくなげ》が咲き、七月に躑躅《つつじ》が咲くといふやうな深い山の中から採つて來るからである。漆の芽なども旨い。
蕨は十二三年前までは寂光へ行く路、霧降へ行く路、裏見へ行く路などでも澤山に採れたが、ぢき手に持てなくなる位採れたが、今は開けて、もうさう手近なところにはなくなつた。その時分になると、矢張寺坊にゐる山に精しい婆さんなどが採りに行つてそして賣りに來た。太い見事な、淺い山などでは見ることの出來ないやうな蕨である。さういふ婆さんは、大抵寂光から裏見へ行く山の中、裏見から慈觀瀑《じくわんのたき》の上一里ほどの處へ出かけて行つてそして採つて來るのであつた。霧降瀑《きりふりのたき
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