つて来る時にも、町の外《はづ》れまで送つて来て、大きな腹をして、垣《かき》の処に寄りかゝつて泣いて居た。
目の盲《し》ひたお婆さんは、車に乗ると眼が眩《まは》ると言ふので、昔|御国替《おくにが》への時乗つて来たやうな軽尻馬《からしりうま》をわざわざ仕立てゝ、町の通をほつくり/\と遣《や》つて来た。『盲目《めくら》でも眼が廻るのかねえ』と誰かが言つた。
維新前から船の問屋の爺《おやぢ》を知つて居るお爺さんは、朝から禿頭を光らして出かけて行つて居た。
二
船の準備《したく》がやがて出来た。
長い踏板《ふみいた》が船縁《ふなべり》から岸に渡された。一番先に小さい弟《おとと》が元気よくそれを渡つて、深い船の中に飛んで下《お》りた。其処《そこ》まで送つて来た婿の機屋《はたや》が盲目《めくら》のお婆さんを負《おぶ》つて続いて渡つた。お爺さん、主婦、それから便船《びんせん》を幸ひに東京まで乗せて行つて貰はうといふ隣のお爺さんも乗つた。
船の中はちやんと整理がしてあつた。暑くないやうに、一ところ苫《とま》が葺《ふ》いてあつて、其処《そこ》に長火鉢や茶箪笥が置いてある。炭取には炭
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