田山花袋

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)其処《そこ》に

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)中《ちう》二|階《かい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)婆さん[#「婆さん」は底本では「姿さん」]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いろ/\の
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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     一

 家の中《ちう》二|階《かい》は川に臨んで居た。其処《そこ》にこれから発《た》たうとする一家族が船の準備の出来る間を集つて待つて居た。七月の暑い日影《ひかげ》は岸の竹藪に偏《かたよ》つて流るゝ碧《あを》い瀬にキラキラと照つた。
 涼しい樹陰《こかげ》に五六艘の和船《わせん》が集つて碇泊して居るさまが絵のやうに下に見えた。帆を舟一杯にひろげて干して居るものもあれば、陸《をか》から一生懸命に荷物を積んで居るものもある。此処等《ここら》で出来る瓦や木材や米や麦や――それ等は総て此川を上下する便船《びんせん》で都に運び出されることになつて居た。その向こうには、某町《なにがしま
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