に、微かに靡《なび》いて居るが、村ではこれに対して一人も同情する者が無いと思ふと、自分は又|簇々《むら/\》と涙を催した。
あゝその雨中の煙! 自分は何うしてこの光景を忘るゝ事が出来よう。
十二
否――
諸君、自分は其夜更に驚くべく忘るべからざる光景に接したのである。自分は自然の力、自然の意のかほどまで強く凄《すさま》じいものであらうとは夢にも思ひ懸けなかつた。其夜自分は早くから臥床《ふしど》に入つたが、放火の主犯者が死んで了つたといふ考へと、連夜眠らなかつた疲労《つかれ》とは苦もなく自分を華胥《くわしよ》に誘つて、自分は殆ど魂魄《たましひ》を失ふばかりに熟睡して了つた。熟睡、熟睡、今少し自分が眼覚めずに居つたなら自分は恐らく全く黒焼に成つたであらう。自分の眼覚めた時には、既に炎々たる火が全室に満ち渡つて、黒煙が一寸先も見えぬ程に這《は》つて居た。自分は驚いて、慌《あわ》てて、寝衣《ねまき》の儘、前の雨戸を烈しく蹴つたが、幸《さいはひ》にも閾《しきゐ》の溝《みぞ》が浅い田舎家《ゐなかや》の戸は忽地《たちまち》外《はづ》れて、自分は一簇《いちぞく》の黒煙と共に戸外《お
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