へ、自然の心を完全に有せる者は禍《わざはひ》なるかな、けれど、この自然児は人間界に生れて、果して何の音もなく、何の業《わざ》もなく、徒《いたづ》らに敗績《はいせき》して死んで了ふであらうか」
「否、否、否、――」
「敗績して死ぬ! これは自然児の悲しい運命であるかも知れぬ。けれどこの敗績は恰《あたか》も武士の戦場に死するが如く、無限の生命を有しては居るまいか、無限の悲壮を顕《あら》はしては居るまいか、この人生に無限の反省を請求しては居るまいか」
 自分は深く思ひ入つた。
 少時《しばらく》してから、
「けれど、この自然児! このあはれむべき自然児の一生も、大いなるものの眼から見れば、皆なその必要を以て生れ、皆なその職分を有して立ち、皆なその必要と職分との為めに尽して居るのだ! 葬る人も無く、獣のやうに死んで了つても、それでも重右衛門の一生は徒爾《いたづら》ではない!」
 と心に叫んだ。
 何時《いつ》去つたか、傍には既に友は居らぬ。
 戸外の雨はいよ/\侘《わび》しく、雲霧は愁《うれひ》の影の如くさびしくこの天地に充《み》ち渡つた。丘の上の悲しい煙は、殆ど消ゆるかと思はるゝばかりに微か
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