自分は戸外《おもて》を見た。昨夜の月に似もやらぬ、今日は朝より曇り勝にて、今降り出すか降り出すかと危んで居たが、見ると既に雨になつて、打渡す深緑は悉《こと/″\》く湿《うるほ》ひ、灰色の雲は低く向ひの山の半腹までかゝつて、夏の雨には似つかぬ、しよぼ/\と烟《けぶ》るがごとき糠雨《ぬかあめ》の侘《わび》しさは譬《たと》へやうが無い。
其処へ根本が不意に入つて来た。
検死事件で一寸手離されず、彼方此方《あつちこつち》へと駈走つて居たが、漸《やうや》く何うにかなりさうになつたので、一先《ひとまづ》体を休めに帰つて来たとの事であつた。
「何うだね?」
と聞くと、
「何アに、其様《そんな》に心配した程の事は無えでごす。警官も奴の悪党の事は知つて居るだアで、内々は道理《もつとも》だと承知してるでごすが、其処は職掌で、さう手軽く済ませる訳にも行かぬと見えて、それで彼様《あん》な事を言つたんですア」
「それで死骸は何うしたね」
「重右衛門のかね。あの娘《あま》つ子《つ》が引取つて行つたけれど、村では誰も構ひ手が無し、遠い親類筋のものは少しはあるが、皆な村を憚《はゞか》つて、世話を為《し》ようと言
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