ふものが無えので、娘《あま》つ子《つ》非常に困つて居たといふ事です……。けれど、今途中で聞くと、娘つ子奴、一人で、その死骸を背負《しよ》つて、其小屋の裏山にのぼくつて、小屋の根太《ねだ》やら、扉やらを打破《ぶちこは》して、火葬にしてるといふ事だが……此処から烟《けむ》位見えるかも知れねえ」
 と言つて向ふを見渡した。
 注意されて見ると、成程、三峯の下の小高い丘の深緑の上には、糠雨《ぬかあめ》のおぼつかなき髣髴《はうふつ》の中に、一道の薄い烟が極めて絶え/″\に靡《なび》いて居て、それが東から吹く風に西へ西へと吹寄せられて、忽地《たちまち》雲に交つて了ふ。
「あれが、左様《さう》です」
 と平気で友は教へた。
 それが村で持余された重右衛門の亡骸《なきがら》を焼く烟かと思ふと、自分は無限の悲感に打れて、殆ど涙も零《お》つるばかりに同情を濺《そゝ》がずには居られなかつた。「死はいかなる敵をも和睦《わぼく》させると言ふではないか。であるのに、死んだ後までも猶《なほ》その死骸を葬るのを拒むとは、何たる情ない心であらう。そのあはれなる自然児をして、小屋の扉を破り、小屋の根太《ねだ》を壊して、そ
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