《はなはだ》しく重んずる山中の村――この故郷を離るゝ事が出来ぬ運命を有して居た」
 と思ふと、自分が東京に居て、山中の村の平和を思ひ、山中の境の自然を慕つたその愚かさが分明《はつきり》自分の脳に顕《あら》はれて来て、山は依然として太古、水は依然として不朽、それに対して、人間は僅《わづ》か六千年の短き間にいかにその自然の面影《おもかげ》を失ひつゝあるかをつく/″\嘆ぜずには居られなかつた。
「けれど‥‥‥」
 と少時《しばらく》して、
「けれど重右衛門に対する村人の最後の手段、これとて人間の所謂《いはゆる》不正、不徳、進んでは罪悪と称すべきものの中に加へられぬ心地するは、果して何故であらう。自然……これも村人の心底から露骨にあらはれた自然の発展だからではあるまいか」
 此時ゆくりなく自分の眼前に、その沈黙した意味深い一座の光景が電光《いなづま》の如く顕《あらは》れて消えた。続いて夜の光景、暁の光景、ことに、それと聞いて飛んで来た娘つ子の驚愕《おどろき》。
「爺様《とつさん》、嘸《さ》ぞ無念だつたべい。この仇《かたき》ア、己《おら》ア、屹度《きつと》取つて遣るだアから」
 と怪しげなる声を
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