四方に過ぎぬ田池の有つた事を。然るに其田池の前には、今一群の人が黒く影をあつめて居て、その傍には根本家と記した高張提燈《たかはりぢやうちん》が、月が冴々《さえ/″\》しく満面に照り渡つて居るにも拘《かゝ》はらず、極めて朧《おぼろ》げに立てられてあるが、自分はそれと聞いて、驚いて、其傍に駆付《かけつ》けて、その悲惨なる光景を見た時は、果して何んな感に撲《う》たれたであらうか。諸君、其三尺四方の溝《どぶ》のやうな田池の中には、先刻《さつき》大酔して人に扶《たす》けられて戸外へ出たかの藤田重右衛門が、殆ど池の広さ一杯に、髪を乱《み》だし、顔を打伏《うつぶ》して、丸で、犬でも死んだやうになつて溺《おぼ》れて居るではないか。
「一体何うしたんです」
 自分は激して訊《たづ》ねた。
「何アに、先生、えら酔殺《よつぱらつ》たもんだで、遂《つ》ひ、陥《はま》り込んだだア」
 と其中の一人が答へた。
「何故《なぜ》揚げて遣らなかつた!」
 と再び自分は問うた。
 誰も答へるものが無い。
 けれどこれは訊ねる必要があるか。と自分は直ぐ思つたので、其儘押黙つて、そつとその憐れな死骸に見入つた。月は明らかに其
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