で、あの重右衛門、あの乱暴な重右衛門さへ居なければ、村はとこしへに平和に、財産、家屋も安全であるのに、あの重右衝門が居るばかりで、この村始まつて無いほどの今度の騒動《さわぎ》。
いつそ……
と誰も皆思つたと覚しく、一座の人々は皆意味有り気に眼を見合せた。
あゝこの一瞬!
自分はこの沈黙の一座の中に明かに恐るべく忌《い》むべく悲しむべき一種の暗潮の極めて急速に走りつゝあるのを感じたのである。
一座は再び眼を見合せた。
「それ!」
と大黒柱を後に坐つて居た世話役の一人が、急に顎《あご》で命令したと思ふと、大戸に近く座を占めた四五人の若者が、何事か非常なる事件でも起つたやうに、ばら/\と戸外《おもて》へ一散に飛び出した。
* * *
二十分後の光景。
自分は殆《ほとん》ど想像するに堪へぬのである。
諸君は御存じであらう。自分が始めてこの根本家を尋ねた時、妻君が頻《しき》りに、鋤《すき》、鍬《くは》等を洗つて居た田池《たねけ》――其周囲には河骨《かうほね》、撫子《なでしこ》などが美しくその婉《しを》らしい影を涵《ひた》して居た纔《わづ》か三尺
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