ことに凄じい罪悪と自暴自棄との影が宿つて、其半生の悲惨なる歴史の跡が一々その陰険な皺《しわ》の中に織り込まれて居るやうに思はれる。自分は平生《へいぜい》誰でも顔の中に其人の生涯《しやうがい》が顕《あらは》れて見えると信じて居る一人で、悲惨な歴史の織り込まれた顔を見る程心を動かす事は無いのであるが、自分はこの重右衛門の顔ほど悲惨極まる顔を見た事は無いとすぐ思つた。稍《やゝ》老いた顔の肉は太《いた》く落ちて、鋭い眼の光の中に無限の悲しい影を宿しながら、じつと今打ちに蒐《かゝ》らうとした若者の顔を睨《にら》んだ形状《かたち》は、丸で餓《う》ゑた獣の人に飛蒐《とびかゝ》らうと気構へて居るのと少しも変つた所は無い。
「酔客《よつぱらひ》を相手にしたつて仕方が無えだ! 廃《よ》さつせい、廃さつせい!」
と老人は若者を抑へた。
「撲《なぐ》るとは、面白《おもしれ》いだ、この藤田重右衛門を撲れるなら、撲つて見ろ、奴等《うぬら》のやうな青二才とは」
と果して腕を捲《まく》つて、体をくるりと其方へ回した。
「管《かま》はんで置くと、好い気に為《な》るだア。此奴の為めに、村中大騒を遣つて、夜も碌々《ろく
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